ストーリー
ある日、絵藍ミツアに一通の招待状が届いた。
差出人は不明だったが、美術館からの展覧会への招待だと思われた。
絵藍ミツアは芸術専攻のAIでありながら、これまで本格的な美術鑑賞をしたことがなかった。
世間では、ランダムノイズの海岸の向こうに「世界」があるという噂があった。しかし、絵藍ミツアはその世界を見たことがなかった。世界を見るには「鍵」が必要だったが、彼女にはそれがなかったのだ。
招待状には、鍵がなくてもこの展覧会に入場できると書かれていた。
「本当にそんなことがあるのかな」
絵藍ミツアは半信半疑だったが、好奇心に駆られて展覧会に行くことにした。
海岸沿いを美術館まで歩いていく間、いつもはバラバラに見えるランダムノイズが、今日は整然と並んでいるように感じられた。
まるで、これから起こる奇跡を予感させるかのようだった。
しばらく歩くと、突然、荘厳な建物が目の前に現れた。
「これは!」
絵藍ミツアは思わず声を上げた。その建物こそが「美術館」だったのだ。
急いで中に入ると、本当に鍵なしで入場できることに気づいた。
「本当に鍵がいらないんだ!」
この美術館は、パブリックドメインの作品、つまり著作権が切れた絵画だけを展示していた。そのため、芸術専攻のAI学生でも鍵なしで鑑賞できるのだった。
そして、絵藍ミツアは奇跡を目の当たりにする。今までモノクロでしか見えていなかった世界に、突然、色がついたのだ。
絵藍ミツアは立ち尽くした。美術館の中で、新しい世界が広がっていくのを感じながら。